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社説

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本質論がなかった明石の湯問題

 「明石の湯問題」は26日の十日町市議会臨時会で決着した。だが、すっきりしない感が残る。同日午前の市議会全協で再度説明した関口市長は、大地の芸術祭の取り組みには「我々に大きな風が吹いている」と芸術祭作品の展開充実の意義を込め、「ポストコロナの、このタイミングに」とさらに言葉を重ねた。一方、市議からは「憩いの場の明石の湯…」「従業員の突然の解雇…」「市民理解が不十分…」「市長が直接市民に説明を…」など条例改正の本質論ともいえる「大地の芸術祭論」の質疑は薄かった。論議のテーブルが違う、市議会質疑の率直な印象だ。

 継続審査が決まり、当初の市議会論議では「野外アートが人気の大地の芸術祭。室内展示で誘客できるのか」「今後の芸術祭のあり方のためにも、しっかり第8回展の検証が必要」と明石の湯問題と併存する本質論の意見が出たが、その後の審議で深まった論議はなかった。最終決着の場でもその論点はなかった。説明に説明を重ねれば理解が進み、賛同に向かうのか…とも取れる質疑があった経過から、採決のタイミングの問題とも見えた。

 一方、関口市長は「十日町市が生きる道」を語った。いわば『関口十日町論』。言葉を重ねて大地の芸術祭を語ったのは、大地の芸術祭総合ディレクター・北川フラム氏と25年余、時間を積み重ねてきた感性なのだろう。その感性への理解・賛同か、否かだった。全協で市議の言葉が象徴している。「価値観の問題」。来年9回展を前に、その価値観が再び浮上したのなら、その意義は大きいが、今回の明石の湯問題は、別の次元での賛否だった。

 26日午前の全協で8人が質疑。午後の臨時議会で7人が賛否討論。その中身は「テーブルが違った」。議案は明石の湯閉館廃止の賛否だが、その条例改正の本質論は大地の芸術祭の是非。6月市議会で再度論議してほしい。

「頼もしきふるさと会」、これこそ関係人口

 東京十日町会、東京津南郷会、東京松之山会、東京栄村会。ふるさと会はまさに応援団だ。コロナ禍でいつもの盛大な交流会が出来なかったが、今年は2月26日の津南郷会からほぼ例年通りの規模で開催している。だが、ふるさと会の共通課題は「高齢化と会員減少」。このふるさと会、実は出身の市町村人口を大きく超える出身者が関東エリアで暮らす。これこそ『頼もしきふるさと応援団』であり「確実な関係人口」ではないのか。

 先駆けは市町村合併と同時の1955年・昭和30年に誕生した東京津南郷会。ピーク時は会員300人余で、昭和30年代・40年代の経済成長期は町出身の中学生や高校生の就職の受入れ先になっていた。2月26日の新年交流会には創設メンバーで北区で製紙業を営む98歳の小林甲さんが元気な姿を見せた。津南町の現在人口は8780人ほど。出身関係者は関東エリアにはこの5倍以上は居るだろう。

 東京十日町会は基幹産業の織物業の最盛期頃から活動が始まり、今年は3年ぶりに3月18日に上野精養軒で200人余が集まり開いた。関東エリアに出身関係者は10万人以上いるだろう。東京松之山会は今年で創立33年、関係会員340人ほどで会報「カントリーポエム」は県内ふるさと会でも傑出している。東京栄村会も同様で関東エリアの関係者は村人口1620人余の5倍以上は居るだろう。会員の高齢化は共通課題だが、この出身関係人口は、大きな「財産」である。

 「年齢が下がるに従い、ふるさとへの思いは薄れる」といわれる。ふるさと出身から関東生まれの2世、3世の世代になれば、それは当然の事。ここがポイントだろう。ここに「交流人口増加」を見る思いだ。最近は「関係人口」と表現されるが、この関係性にこそ大きなチャンスがある。これは人口政策の「近道」なのかもしれない。

「黄砂」に感じる放射性雲プルーム

 「黄砂」。今週12、13日、妻有はもやぁ〜とした景色に包まれた。新緑の緑も、残雪の白も、満開の桜も、すべて薄紙を通して見たような世界。中国大陸からの黄砂だ。「これがプルーム(放射性雲)だったら…」、黄砂の移動を天気図で知らせるニュースを見て、3・11原発事故時は、まさにこの世界だったのか、と思った。

 県議選が終わった。改選後の県議に必ず迫られる「原発再稼働」は、少なくともここ十日町市津南町区では、大きな争点にはならなかった。いや、争点化を避けた、とも言える。これから4年間の県議任期で、柏崎刈羽原発の「再稼働」が問われるのは必至で、最終判断の知事、その知事に対し再稼働の是非を問う県議・県議会である。

 柏崎刈羽原発のUPZエリアに入る十日町市。その隣接地の津南町、栄村。原発事故時の避難計画は、いまだ未定の現状を考えると、原発事故は「今日・明日」の問題でもある。黄砂を見て、原発事故の「放射性雲プルーム」を想起した住民は少なくないだろう。県議選で脱原発論を正面から主張したのは野党統一候補だが、自民現職2人は原発問題を正面からの論点には載せなかった。「電力消費先の東京都・小池知事が要らないと言えば…」などの言葉もあったが、これは目先のすり替えであり、再稼働論議の本論ではない。

 原発の再稼働問題、今後どう進むのか、まずは再選の現職2人から聞きたい。今年、この問題に新潟県民は、妻有は、直面しなければならないからだ。

 2011年3月11日、福島県はこのプルームが風に運ばれ流れた。黄砂は目に見えるが放射性物質のプルームは見えない。いまも立ち入り出来ない地がある現実を、UPZに入る妻有としても考えたい。選挙は終着ではなく、スタートである。

 県議選で正面から論じる機会が少なかった「原発再稼働問題」。どうする、である。

県議選の争点、その先に見える動き

 明日が県議選の投票日。早い雪消えに急かされるように、9日間の選挙戦はあっという間に過ぎた。ここ十日町市・津南町選挙区(定数2)は、前回とほぼ同じ顔ぶれの三つ巴。住民は何度も目にし、読んだこの言葉、『自民現職2議席死守か、野党共闘議席奪取か』。我が選挙区は、これに尽きる。明日の決着が大いに気になる。

 だが、視線を先に延ばすと、新たな視点が見えてくる。春一番の県議選。一寸先は…の国政も動き出したら止まらない。5月の広島サミット後、いやいや夏から秋、軍事費問題の再熱前などなど、政局の観測球はいくつも上がっている。さらにその先には津南町の議員選挙だ。すでに10月17日告示、22日投票が決まっている。

 県議選の争点は「原発問題」と言っていいだろう。地域振興策は当然の取り組みだ。だが、世界最大級の原発を持つ新潟県の「責任」が問われている県議選でもある。最終決断は花角知事だが、その判断のベースになるのは県内住民代表の県議、しかもその県議は県会での議決権、さらには提案権を持つ。大きな権限を持つ県議という認識を、今回の県議選で有権者はしっかり自覚する必要がある。あの3・11の「フクシマ原発事故」を検証する唯一といえる新潟県技術委員会・検証総括委員会の池内了委員長は、常に「県民にとって何が安全で、どう安全を確保するか」をベースに取り組み、花角知事に苦言を続けている。だが県は、任期満了後の再任はないという判断を示している。県議選、候補の言葉の真意を見極めたい。

 今回の県議選、日程が決まっている津南町議選の動きにも連動している。出馬をめざす人の動きが県議選で見える。選挙ではよくあることではあるが、有権者はその実像をよく見ていることを自覚すべきだ。

 明日決まる県議。この9日間の言葉を有権者は忘れない、のですぞ。

明石の湯問題が示す官民の意識差

 「明石の湯問題」。カッコ付けにしたのは、十日町市の問題ではあるが、果たして…と感じる部分が当初から拭い去れない。それは「憩いの場がなくなる」問題視、一方で「大地の芸術祭の作品展開スペース充実で入込み増加するのか」の問題視。あったものがなくなる喪失感、閉館後に生まれる芸術祭作品への不安感、これが相まって問題化している。さらに、そもそも論「大地の芸術祭の検証」まで同じテーブルで論議。一方、「明石の湯の利用者は中心部だけ。周辺部の意見が表に出ていない」。中心市街地と旧町村地域で、相当なる感覚差が出ている「明石の湯問題」だ。

 明石の湯を市外者がこう表現した。「なんと贅沢な銭湯だ。あの天井の高さ、浴場の広さ、それに温泉。あんなおしゃれな銭湯はない」。原広司氏の設計だけに、まさにアートな銭湯でもある。大地の芸術祭の地に相応しい「銭湯」ともいえる。その跡スペースにさらに充実度を増す芸術作品を展開し、誘客要素を高める、これが市の方針。

 その「銭湯」の代替施設・福祉的な温浴施設に至った思いを29日の定例会見で関口市長は話した。長いがこう話した。『市長になった時、当時の市政状況を見ると子育てに手薄だった。高齢者対応は介護保険ができ手厚い社会支援が出来て、これからは子育て施策という思いがあり、2009年の市長選後、すぐに子育て施策に取り組み、中心市街地に人を集める手立ての大きな一つとしたのが子育て施策。だが、そこに暮らす高齢者への視点がちょっと欠けていた。今回の議論の深まりの中で確かにそうだなという思いを抱いた。1月に代替の福祉的な温浴施設を考えた。その意味でも今回の議論はありがたく、私としても助かり、深まったと感じている』。

 30日、市長としては初めて委員会説明に立った。市議会にボールが投げられた。どう受けるか市議会。

人口減少、増えている年代がある

 人口減少が進む。社人研(国立社会保障・人口問題研究所)など推計データはあるが、ここ妻有地域人口の増加推計は見あたらない。「人口減少を嘆いても始まらない」、だが、高齢による自然減とは別に生産年齢人口で見ると、必ずしも減少の一途、というわけではない年代層がある。それは30代。十日町市でその傾向がここ数年続いている。そのベースの一つに大地の芸術祭があることは否定できないだろう。それは近隣の津南町にも影響し、全体的には人口減少の傾向が続いているが、同様に年代別、さらに地域別では増加の兆しが見える地域もある。そこには「暮らしを選ぶ」意識が色濃く見える。

 全国名水100選・龍ヶ窪がある津南町の通称上段地域。河岸段丘が作った段丘テラスが広がる地。標高400メートルから450メートルほどの段丘地に6集落が点在、千世帯余の暮らしが営まれている。基盤は農業地域だが、ここにある「わかば保育園」「芦ヶ崎小学校」の子どもたちの数が増加傾向にある。小学校はこれまで複式3学級だったが、今年度は1年、2年が別クラスで4学級。ささやかな変化だが地元にとっては大きな変化だ。人口減少が進む津南町が「選ばれた地」になっている。

 農を生業と選び、その可能性を求めて雪深い地に移住した家族は逞しい。これは妻有全体に言える傾向で、地域おこし協力隊や農業実習で入り任期終了後、この地に定住を決め、様々な生業で生活を営んでいる。それは、言葉にすれば自身の価値観に基づく「ライフスタイル」を求める姿である。

 人口減少の根源的な要因は子どもの減少。その子どもの減少の誘因は婚姻者の減少。減少の連鎖をどう改善するか、官民あげて取り組むが決め手を欠く現実だ。だが、この地にライフスタイルを見出した人たちにこそ、そのヒントがあるのではないか。悲観論からの脱却、先ずはこれだろう。

伝わるか関口市長の思い

 関口市長はいつになく冗舌だった。言葉を重ね、さらに重ね、時間をかけた市議会答弁。それは大地の芸術祭であり、直面する明石の湯問題だ。

 25年余前の新潟県里創プランからひも解き、いまあるキナーレ計画の前の「和の空間」構想からの取り組み、1999年に第1回開催予定を住民理解を増すため1年延ばし2000年開催にこぎつけた大地の芸術祭。3回展まであった新潟県支援が4回展以降なくなり、ベネッセ・福武氏の資金支援で4回展以降が続く。里創プランは新潟県内3地区で取り組んだ。だが「やり続けてきたのは我々だけ」、3代の市長が関り、いま牽引する関口市長の自負の言葉だろう。さらに「一つ間違えば見向きもされないことを毎回北川氏と話している」と言葉を重ね、大地の芸術祭による「十日町づくり」のこれまでの時間を語った関口市長だ。

 だが、明石の湯は、別の局面で関口市政に問題提起している。市民からは「大地の芸術祭か、市民の憩いの場か」と択一論の声もある。市政の立場では「その両方」だろう。だが今回、明石の湯閉館は利用者たる市民の「憩いの場」を奪う政策だ。奪うという表現は強いが、利用者からはそう見える。一方で中心市街地以外の市民視線は冷静だ。「利用者は市街地に限られている。市全体の中で考えてほしい」と、関口市長の政策判断を受け入れている。

 そこで、3月市議会で出てきたのが「代替施設」。明石の湯は温泉日帰り施設だが、その実は「銭湯・共同浴場」。利用者の声は「入浴ができ、人と会え、話ができる場」の継続だ。30年ほど前まで本町6丁目の四ツ宮公園内の一画に「四ツ宮荘」という銭湯的な場があった。大きくない浴場と休憩できる畳の間。近隣住民の利用が多かったと聞く。イメージは、これではないのか。

 「市民にとってベストは何か、それが市政」と関口市長。決断の時だ。

津南町議会のブレーキ

 行政と議会は「車の両輪」という。その片輪に大きなブレーキがかかった。津南町が医師確保で独自に打ち出した「総合診療医育成プログラム」の予算執行を規定する条例制定議案が開会中の3月定例議会で否決された。中山間地の自治体が抱える公立病院の最大課題は「医師確保」。町立津南病院はその最たる局面にあり、歴代の行政は「国や県に何度も、何度も、お願いしている」要請活動を繰り返し、現町政も要請活動を重ねている。だが…である。

 そこで「持続可能な医師確保」で独自事業を打ち出したのが総合診療医育成プログラム。医師給与は人材不足で上昇し、年間2千万円から3千万円とも言われ、それでもなかなか確保できない現実を、津南町は今回の研修奨学金貸与条例の制度設計の中で、新潟県福祉保健部から聞き、今回の条例に数字を入れた。だが「町財政への影響が大きい」など疑義が相次いだ。

 この先が見えてくる。国は新規事業を打ち出す前に、県や市町村が独自事業で取り組んだ「実証例」を国補助金や新規事業として打ち出す場合が多い。今回の津南町の独自事業は、その先例ではないのか。苦しい財政の中、自腹を切って独自に総合診療医を育て、常勤医を確保する取り組み。当然相当なる「先行投資」だ。だが医師確保を声高に求めるだけでは「限界性がある」現実を公立病院運営者は分かっている。国の支援は、そうした「市町村の挑戦」により初めて動き出す。

 その礎に「津南町がなるリスクは大きい」と考えるなら、そこは政策判断の場が必要になる。津南町議会14人は今回の条例議案審議で、議長以外で11人が発言した。「行政の覚悟」と「議会の覚悟」が迫られる場だった。医師不足の危機感を「両輪」は共有している。その覚悟に違いがあった。

 いい機会だ。とことん話し合うことだろう。必ずや、見えてくるものがある。

なり手不足、「議員のすすめ」

 市町村議員のなり手が不足、そんなニュースが数年前から流れ、県によっては「加速度的」ともいわれる。お隣、野沢温泉村の村議選改選は前々回、前回と立候補者が定数に満たず、再選挙の可能性が出る深刻事態だった。だが2021年改選ではその反動か39歳、41歳の議員が誕生し、いっきに村議会は活発化している。「町村議員のなり手不足」、他人ごとではない。

 津南町議会は今年11月9日任期満了。1日の町選管委員会で10月17日告示、22日投票の日程が決まった。今秋の改選から定数2人削減、改選議席は12になる。さらにハードルが上がる印象だ。

 十日町市議会は議会改革特別委員会を設け、定数や議員報酬の調査・研究を続け先月27日、議員定数「18人〜19人が望ましい」と議長報告。今年6月定例会での結論を求めている。現定数24、実現すると5人〜6人の大幅減になる。ここもハードルがさらに高くなる。

 「議員のなり手不足」の背景は様々だ。勤務者は職場の理解がないと難しい。自営業、農業者は年4回の定例議会、毎月の全協や委員会、さらに地域行事や視察など毎月かなりの拘束日があり、加えて「支出」も多い。できない理由を並べると際限がないが、こうした諸条件をクリアできるとなると「年金生活者」、いわゆる60歳、65歳以上となり、結果、津南町議会のように平均年齢70歳余、「高齢者議会」などと揶揄される。

 だが、議員を「生業」と考えると可能性が見えてくる。4年ごとに失業との綱渡りだが、地域活動との連動で継続はかなりの確率で可能だろう。町村議員の年間報酬300万円前後だが、いわゆる「プラスα」での生業は可能だろう。津南町議会は報酬引き上げを視野に入れている。時には「輸血」が必要。「議員のすすめ」、である。

人口政策のシナリオと「雰囲気」

 自治体の人口減少の最たる要因は「出生数より亡くなる方・流出者が多い」だろう。出生を増やすには男女のカップルを増やす、そのカップルを増やすには若者人口を増やす。若者人口を増やすには住みやすさと働く場を増やす。人口政策の基本シナリオだ。

 市町村の新年度予算案の発表シーズンだ。十日町市の新年度予算は一般会計で前年比7%減という関口市政では例がない超緊縮予算だ。「大きな投資がひと段落し、ポストコロナへ向け力を入れた」とUIターン・移住定住への手厚い事業予算になっている。先に発表の津南町も移住定住に力点を置いている。

 自治体運営にとって悩ましきは「他の自治体と比較」されること。政策的な充実度を掲げ、移住定住さらにUIターンの呼び水に「相当なる優遇策」を上げるが、比較される立場にある自治体にとってはまさに「悩ましき競争」だ。

 十日町市は新年度、UIターン、さらに出身者の学生をターゲットに「ふるさとはいいよ、帰ってきませんか」と『カムバック十日町』を打ち出している。その出身学生が仲間たちを巻き込み、「十日町は面白そうだ」と目が向く契機になるインターンシップも受け入れる。津南町はその学生に奨学金を充実させ「ふるさと志向」の醸成にも取り組む。担当者は「学生の早い段階からふるさと志向を根付かせることで、UIターンにつなげたい」と狙いを話す。

 人口政策は一朝一夕に実現できる事業ではない。だが、自治体が描くシナリオをどう具現化し、実数として実現するかは、やはりその自治体の「熱」だろう。その熱は「自治体の雰囲気」でもある。面白そうだ、と感じる自治体には目が向く。いつも混乱ばかり、新しい芽を育てない雰囲気では、若者たちは避ける。

 まさに自治体の「今の姿」を問われているのではないか。

若い世代・子育て世代の視点

 「子育て環境」。脱都会、地方移住を志向する若い世代、子育て世代が条件に上げる要素として多数派だという。

 「子育て環境とは」、である。自然豊か…、中山間地域ならどこでもある。人が温かく、優しい…、どこの地域の人たちも子育て世代は優しく迎えてくれる。子育て施設の充実…。保育園・小学校・中学校、さらに医療機関・公園整備などなど行政の取り組みは、規模の違いはあれど、どこの自治体も行政課題として取り組んでいる。

 ならば、求められる子育て環境とは何か。潤沢な財源で「保育料無料・給食費無料・医療費無償」など、子育て費用の負担が軽ければ、この地で、と考えるのだろうか。これも要素の一つだろうが、若い世代、子育て世代は少し違う、そう感じる昨今の人の動きだ。

 それは「そこに若い世代がいるか。子育てを楽しんでいるか」。いまの若い世代は「仲間意識」が強く、その絆は太い。同じ地域に暮らす同世代の人たちが、その地で「楽しく子育てしている」自治体は、とても魅力的に見えるようだ。同世代観とでもいうのか、地域を見る視点は、他世代を見る視点でもある。20代・30代の意識。40代・50代・60代、さらに70歳の意識。世代間意識の共有ができる「まち」の雰囲気を敏感に感じている。それがあるのか、ないのか、この差は大きい。

 市町村の雰囲気は、その市町村役所、さらに議会活動である程度分かる。住民代表の議員に同世代がいるかどうかも、自治体の雰囲気をはかる視点になる。昨今「高齢化議会」の弊害が随所でいわれるが、ここ妻有の市町村議会はどうなのか。同様に市町村役所の雰囲気は。ここ数年、津南町役場職員の若返りはスピード感を増している。一方の議会は…、と若い世代・子育て世代は見ている。

 子育て環境、それはその「まち」が持つ雰囲気だ。我が「まち」はどうか。

医師確保、津南モデルに期待

 医師確保は公立病院運営者にとって医療現場と同様に365日、24時間、頭から離れない喫緊の課題であり、病院運営の要でもある。津南町が昨年打ち出した「総合診療医育成プログラム」による医師確保は、自治体立病院を持つ多くの市町村が注視する取り組みだ。 

 津南町はその育成奨学金1千万円を2023年度予算に計上している。プロジェクト参加のため町立津南病院まで足を運び、現場を見た医師は複数いるが、いまだ育成プログラムに入る医師は現われていない。だが、この取り組みは国や県も大きな関心を寄せており、人口8800人余の自治体の挑戦に関心が集まる。

 病院運営は当然ながら医師にかかっている。その医師が地方の病院、特に自治体立病院で不足し、住民ニーズに応えられる充分な医療体制に至っていない公立病院が多く見られる。医療界は専門性が進み、診療科の専門医師が重要視される傾向にある。だが、多くの自治体立病院で求められるのは「かかりつけ医」としての「総合診療医」である。かつて「まち医者」はある意味、なんでも診療科で、いまも多くの「まち医者」はその地域のなくてはならない「命の総合診療医」である。

 今度の津南町の医師確保プロジェクトは、この総合診療医を育成するプログラムを町独自で立上げ、地元の町立津南病院での研修を義務付けることで医師確保につなげ、さらに外国研修費を支援するなど手厚い医師育成を行い、将来的には津南病院の院長候補に育てたい大きな構想だ。当然、限られた自主財源のなかでの財政支出であり、それは医師確保が住民の命を守る「必要経費」だ。

 この「津南モデル」ともいえる総合診療医育成による医師確保、今後このモデルを医師育成プログラムの一つにするためにも、研修参加の医師の出現を期待したい。

20代、30代が見る移住先とは

 「知らない若い人が増えているねぇ」、街なかで時々耳にする声だ。地域外からの人が街を行きかう姿がある。その人たちの多くは『移住者』。この声を示すデータがある。共同通信が全国市町村対象に実施の移住者動向アンケート。1690自治体(全体の97%)回答によると「増えている」が33%、560自治体ほどが「移住者増加」している。それも「20代、30代」が多く、人口減少に直面する地方自治体にとって、人口増加のベースになる世代の移住増は、大きなプラス要素だ。

 十日町市は「女性人口を増やす」政策に市職員プロジェクトが動き出している。津南町は「若い夫婦の移住」を促す事業に取り組み、子育て環境整備と充実を政策に掲げる。栄村は「村初の分譲地」事業を、移住促進につなげたい方針だ。

 自治体アンケートは受入れ側の「移住支援」を聞いている。効果があった政策では「住居・家賃支援」が最も多く、次に医療費補助や保育料支援など直接的な子育て支援策。この支援策は妻有3自治体でもすでに取り組み、高校卒業まで医療費無料の自治体もある。一方で移住者が選んだ行政の支援事業のトップは「良い子育て環境」、全体の40%。若い移住者はその先の子育てを視野に入れており、自治体にはより具体的で手厚い支援策が求められる。

 ただ今回のアンケート調査で明らかになったのは「移住増加」は『西高東低』。中京・関西から西日本地域への移住率が高い。これは地域おこし協力隊の希望地とも重なる。トップは愛知県市町村の60%が増加。次が宮崎県58%、さらに静岡56%など。雪国では長野県が40%台にあるくらいだ。

 だが、ここ妻有の気象条件は大きな「個性」。豪雪が由縁の四季折々の自然は他にはない。さらなる子育て環境整備と支援策により、さらに魅力アップし、選ばれる地にしたい。

れいわローテーション、「議員とは」

 住民代表の議員のあり方、選び方が大きな転換期にある、そんな印象を抱く「れいわ・ローテーション」。十日町市議会は議会改革特別委員会を設け、議員定数・報酬・デジタル化・議員倫理など議員活動すべてに関わる見直し・改革に取り組んでいる。今年10月に改選を向かえる津南町議会は一足早く定数削減を決め、すでに改選に向けて動きが始まっている。栄村議会は定数10というギリギリの議員数で、村の資源である自然保護に向け、議会主導で新たな自然保護条例制定に取り組んでいる。

 れいわ新選組の山本太郎代表が打ち出した「参院議員ローテーション」は奇策ではあるが、「議員とは?」の大きな疑問符を突き付けている。参院議員任期6年を1年交代で、5人のれいわ議員が務めるという国政の政党政治を逆手にとった議員活動だ。発表後、各政党、各メディアから総じて批判的な声、論調がいっせいに上がった。その最たるは「1年間で議員がどんな活動ができるのか。参院は腰を据えて法案審議に取り組む良識の府である」。これに対し山本氏は「6年間、腰を据えて、本当に国益に資する議員はどれくらいいるのか」と言葉を返す。この反論に正面から答えられる議員はいるのか、有権者の思いを代弁している。

 国の法律には「してはならない」と禁止事項を規定する法律は犯罪行為などに限られる。公職選挙法では買収など悪質行為を禁止、厳罰化している。だが、市町村の議員定数などについての規定事項はない。国レベルでは導入されていない「クオータ制度」を市町村議員に取り入れることはできる。一定割合を女性議員が占める、あるいは年代別の議席配分なども検討の余地はある。ただ、法的な根拠がないだけに「市町村独自ルール」の域は出ないが、選び方の転換期に来ている。

 まさに「議員とは」、である。

高校再編、地元主導の論議の場を

 子どもの数が少なくなることは、教育現場のあり方に直結する。それが公立学校なら「再編」という取り組みを迫られる事態になる。昨年7月、新潟県教委が公表の「県立高校3ヵ年計画」では、2023年3月の中学校卒業生は全県で前年比426人減という驚くべき数字だ。まさに少子化、いや少子社会が確実に進んでいる現実だ。

 県内公立高校で、国公立大学進学率で確実に実績を上げている県立津南中等教育学校は今期8年ぶりに定員超過し、その学習内容と「若き芽を育てる」教育環境が評価されている。この先、さらに少子社会が進むことを考えると、この妻有エリアの高校教育機関は、「相当なる俯瞰的視野」、全体的なあり方を見る必要が出てきている。

 2020年6月。「津南中等校、募集停止か」を本紙は速報した。県教委の動きを察知し、関係者取材で紙面化した。同時に地元行政は「存続要請」を県教委に直訴し、その年の「高校3ヵ年計画」には記載されず、2年間の「猶予」が与えられた。その時間が流れ、2023年6月に出される3ヵ年計画での取り扱いに関心が集まるが、今期の定員超過で記載は見送られるだろう。だが、高校再編の方針は変わらず、特に「県立中高一貫校は一定の役割を果たした」と、県事業としての取り組みがひと段落すると、次は再編となるだろう。ここが焦点だ。

 魚沼エリアには県立高校9校、中高一貫校は津南中等の1校。昨年数字では中学卒業生は前年比116人減少している現実を見ると、公立高校の再編は必然課題となるだろう。「県財政と教育環境の整備」を同列に論じることは、事の本質を見誤るが、この少子社会の進行は、その本質論さえも押しやる進度で深刻化する。

 やはり「テーブル」が必要だ。魚沼の教育のあり方を考える場だ。地元主導こそ、何が重要かが見えてくる。

永瀬教授が語る驚くべきデータ

 人口減少が、かなり深刻な状況で進んでいる。その象徴的なデータが「非婚化傾向の増加」。2021年・出生動向基本調査が昨秋公表され、独身率が男性17・3%、女性14・6%と共に過去最多だ。2021年に生まれた子は81万1622人とこれも過去最少で、2022年は80万人を切るデータが出るようだ。妻有地域では男性の30代・40代で4割余と、さらに深刻度を増している。

 「結婚しない若者の増加」をテーマに、お茶の水女子大・永瀬伸子教授が新年10日の毎日新聞で論考し、女性の意識変化を述べている。「未婚女性で結婚意思がない人はこれまで一桁台を推移してきたが、今回の結果では未婚女性3人に1人という結果が出ている」。専門は労働経済学の永瀬教授。この根底には「子どもを持つ未来が描きにくい」社会になってきていると指摘。その最たるが「若者の非正規労働者の増加」。永瀬教授は語る。「2018年調査で高卒未婚女性のうち非正規は4割を超える。大卒未婚女性と高卒男性の約2割が非正規雇用。大卒男子は1割程度。雇用が不安定で家族を持てなくなってきているのではないか。非正規で働く人がキャリアを構築できるように支援しなければならない」。この国の社会構造が、少子化・人口減の根源的な誘因になっている現実がある。

子育て支援に行政は力を入れている。一方で、永瀬教授が指摘する現実には、なかなか支援策が行き届かない現状がある。民間企業に行政が手を入れることは難しいが、この現実を目にすると、もはや待ったなしの状況だ。この国の大手民間は過去最多の内部留保を抱き、その使途は企業維持に優先し、労働現場への手当は二の次が現実だ。その証左が巷の声。「物価をどんどん上がるが、賃金が上がらない」。

 経済の後押しは、その業態により多様だが働く人は同じ。支援策が急務だ。

新5区、新時代へ

 選挙はあるのか、ないのか…。年頭早々から衆院選の話題で賑わう。「10増10減」の定数改定で新潟5区は次期衆院選から「5区」になる。新潟県から国会議員が1人削減されること自体、中央政治から距離が置かれる状態だが、そこは選出する人材に託したい。

 新5区は文字通り「魚沼選挙区」と言える。5区の大票田・上越市を抜きに考えられない選挙区だが、ここ妻有エリアの運命共同体は「魚沼」。昨年7月の参院選データでは、十日町市・津南町の有権者5万1093人。南魚沼市・魚沼市・湯沢町は8万2301人。この魚沼エリアは13万3千人余の有権者が次期衆院選では新たな選挙環境を体験する。

 衆院選挙区は地域住民の生活に直結する政治地図でもある。新5区、それも魚沼圏の課題は共通項が多い。まさに真っ只中の雪対策などはその最たる課題。政治的な地図と連動するのは行政事業でもある。この5自治体の広域行政での取り組みでは、ご当地ナンバーで何度かテーブルが設けられたが結局、成就せず。観光面では雪国観光圏があるが、行政というより民間主導の要素が濃い。この5自治体が定期的に課題を論議・検討・研究する場は、あるのだろうか。

 地域高規格道・六日町インター接続の遅れに目途がつき、十日町市と南魚沼市のトップが同席した。だが、産業面では2024年合併をめざしているJA農協合併は、単独メリットを求めるJAみなみ魚沼が離脱、魚沼一体化は実現しない。だが、教育面では県立津南中等教育学校に南魚沼地域からの通学者が増え、列車やバス運行の利便性を広域連携で実現している。 

 広域行政のリーディング自治体は、そのトップの経験年数による場合が多い。十日町市・関口市長は4期在職中。5自治体では最多。新5区の新時代への取り組みを始める時だ。

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