妻有まるごと博物館
サシバのペアとヘビ
県自然観察指導員・南雲 敏夫
今朝、ビックイーと言う声が家の頭の方から聞こえてきて大急ぎでカメラを向けて撮影。サシバのペアが大きく旋回しながら飛んでいる。冬場は東南アジアで越冬して4月には姿を見る事ができる夏鳥である。
で、撮影してみるとなにやら細長いものがぶら下がっていて、よく見るとヘビのようだ。今はサシバの求愛の季節、オスが獲った獲物ほメスに渡すと言うがこの恋が実ったかどうかは不明である…。
どこの世界も男はたいへんだ。
(2023年4月22日号)
フサザクラ
県自然観察保護員・中沢 英正
本州、四国、九州に分布する日本固有の落葉高木である。
沢沿いを好み、崩壊地にいち早く根を下ろすパイオニア植物だ。萌芽力が強いことから株立ちになることが多い。
苗場山麓ではかなり希少な存在といえる。今のところ確認しているのが栄村の中津川沿いと雑魚川沿いの一部だけだからである。
花期は早い。3月末から4月にかけてで、まだたくさんの雪が残る頃だ。葉が展開する前に房状の花を開く(写真)。
花は雌しべと雄しべだけの必要最低限な姿。花弁や萼を持たないのは、風に花粉を運んでもらうために昆虫を誘う必要がないからである。枝先を赤く染める様子は、カツラの雄株によく似ている。
この辺りでは馴染薄な樹木だがたくさんの地方名を持つ。サワグワ(長野、静岡)、メメスギ(埼玉)、オチャボーズ(山梨)、カワダチ(三重)、クボトギ(高知)などなど…。この樹木が関東以西に多いことがわかる。
(2023年4月15日号)
埋もれたレール
津南案内人・小林 幸一
2019年10月の台風19号の増水で芦ヶ崎の波止場では間知石で積まれた護岸の一部が流され、軌道跡のあった山際の土砂が流失しました。付近を散策すると砂の中から錆びた鉄骨のようなものが出ているのでよく見ると探し求めていた線路のレールでした。なぜ鉄が高価な時代にレールが護岸に埋もれたまま工事を進めたのか?
考えられるのは、両側を崖で囲まれたこの地域では洪水で一気に水嵩が増し、高い堤防も簡単に乗り越えてきました。流失した護岸からも何度か嵩上げがされたような工事がしてありましたので、線路や電柱ごと流され、砂に埋まったまま嵩上げがされたのではないでしょうか? また知人の写真ではトロッコの車輪のようなものが埋まっているものがあり、あっという間に流されたことが伺えます。
(2023年4月8日号)
河岸段丘桜
津南星空写真部・照井 麻美
出会いと別れの季節、雪の消えた土からはフキノトウやツクシが顔を出し、季節がどんどん進んでいくことを感じます。
春の代名詞と言えば「桜」ですが、関東に住んでいた学生時代は卒業入学の時期は桜が咲いていることが当たり前だと思っていました。
しかし、この妻有地域ではまだまだ雪が残り、朝も氷点下近くなるなど同じ日本とは思えないような季節の差を感じます。
関東では、すでに半袖の陽気がちらほら出てくるゴールデンウィークごろがお花見日和で、残雪と桜を同時に見られるのは雪国特有の景色だなぁと、雪の降らない地域からすると羨ましく思うことの一つでもあります。
そんな地域の違いを見つけては面白いと感じる私ですが、先日地元出身の方と小学校の体操着の話になりました。
私がいた千葉の学校には「長袖長ズボンは無かった。」と伝えると大変驚かれていました。
それは入学式もストーブを焚いていたと聞いて驚く関東出身者と同じ心境なのかもしれません。
さて、今年の雪消えは昨年より早いようです。季節の一瞬を見逃さぬよう、春の日差しの中歩いてみるのはいかがでしょうか。
(2023年4月1日号)
クルミを食べるカラス
県自然観察指導員・南雲 敏夫
いつごろからか、カラスが車道にクルミを落として車に轢かせてクルミを割り食べている事がある。
カラスの知恵にも驚かされるが、いつごろからかわからないがあちこちでやっているのでカラス同士のコミニュケーションで情報共有をしているのかどうか…。
カラスの知能は霊長類並みとも言われているのでやはりカラスの知能の高さには驚かされる。
今回のカラスはハシボソガラスだったのでネットで調べてみたが、もう1種類のハシブトガラスはやらないと書いてあった。
同じカラス類なのになぜって思ってしまったが。
実際には高いところからクルミを落とすカラスは良く見かけるが、なかなか割れないらしい。したがって車に轢かせればクルミが割れる事を学習したらしい。
確かに車に轢かせれば割れるのでご馳走になるには手っ取り早い。割れればさーっとひろってきて食べている。写真のカラスも道路際で美味しそうに食べていた。
ただクルミの無い時期にはあまりやっていないような気もするが…。
(2023年3月25日号)
ミヤマカワラハンノキ
県自然観察保護員・中沢 英正
控えめな樹木である。人目を引くとすれば花時の姿(写真)だろう。
春先、葉の展開前に雌花穂と雄花穂をつけるが、注目は細長い雄花穂だ。カバノキの仲間はどれも尾状の雄花穂をつけるが、この樹木のは特別に長い。長いものは20センチにもなり、枝先から多数垂れた様は印象深い。
花後に展開する葉は、秋に紅葉するわけでもなく、目立たぬまま散っていく。
妻有地域ではありふれた樹木だが、全国的にみると出会いの限られた珍種となる。分布が本州の東北から中部地方の日本海側だからだ。
一般には馴染少ない樹木だが、山菜採りをする人にとってはありがたい存在かも…。生える場所は雪崩が起きそうな急斜面で、そこはウドやゼンマイなどの宝庫である。不安定な足場を伝い歩く時に頼りとなるのが斜面に生えた草木であり、これらを手掛かりに体を支えることができるからだ。
斜上した樹形は多雪地に適応したものだが、雪崩に巻き込まれ根こそぎ落下したものを目にすることもある。
(2023年3月18日号)
豪雪撮影ツアーとマタギの宿
津南案内人・小林 幸一
森宮交通さんの「豪雪の秋山郷撮影ツアー」のガイドをしました。飯山駅まで参加者を迎えに行き野沢温泉村で撮影、津南に入って苗場酒造を見学し、見玉不動尊、穴藤周辺と雪の中で撮り始めると「これが撮りたかった!」と降る雪を気にしていない様子だったので、今度は見倉のつり橋から前倉のつり橋と高齢者を連れまわし、屋敷の秀清館の温泉で疲れを癒し、小赤沢の出口屋に到着。夕飯には鹿肉や山菜料理、手作りの豆腐や蒟蒻など秋山郷らしい料理でおもてなしをして頂きました。
夕食が終わると座敷に敷いてある3頭の熊の敷物の上で出口屋さん名物マタギの講話が始まります。秋山マタギの由来から猟の話、そしてカメラマンが一番知りたい、熊との遭遇での対処や山での心がけなど伝授して頂きました。
翌日は鳥甲山の朝焼けを狙っていたのですが深夜から猛吹雪、仕方なく夜明け前の除雪作業を撮りに出かけ、ツルツルの路面で何度も転倒しカメラを濡らしてもご満悦、都会では見ることの出来ない風景に盛んにシャッターを切っていました。朝食後はアイスバーンを慎重に運転して頂き、切明から上野原と回り、秋山郷撮影ツアーの最後は観光客の絶えない人気の清津峡トンネルで締めました。
今回の参加者は少なかったですが、雪の中でも受け入れ側も工夫があればまだまだ伸びしろはあると思いました。
(2023年3月11日号)
石落としの「音」
津南星空写真部・照井 麻美
今回は写真に写らない音を紹介したいと思います。
3月に入り、暖かい日差しを浴びると春だなと感じますが、雪残るこの地域では日本最大の段丘から春の訪れを告げる音がします。
それは「石落とし」です。
河岸段丘の絶壁から雪解けのころ崖から雪が落ちるのと共に岩も落ちる様を指します。
昨年は晴れてるのに雷がゴロゴロなっているのはなぜだろう? と不思議に思っていましたが、まさにそれが石落としの岩が落ちる音だったのです。
その時、初めて津南町の見玉公園を訪れた時に抱いていた「見玉の石落とし」とは何だろう?という疑問が自分の中ですっきりとしました。
この写真撮影の際、私は石落としの瞬間を見たいと思い、しばらく見玉公園から対岸の崖をじーっと見つめていました。
しかし、この時は見ることはできず、ガラゴロと響き渡る音を感じていました。
この地域では当たり前のことかもしれませんが、他の場所から来ると不思議な事や素晴らしいものがたくさんあります。
ぜひ皆さんも音や匂いなど五感を使って季節を感じてみてください。
(2023年3月4日号)
輝く冬の星々たち
県自然観察指導員・南雲 敏夫
この号が発売される頃の夕方の8時頃には四季の季節の中でも1番、1等星が多く見られる時期でもある。もちろん目に付くのが均整の取れたオリオン座、一番上に5角形のぎょしゃ座、右側にはおうし座、スバル星団とプレアデス星団の2つの大きな星団が目立つ。
一番下には全天で最も明るい1等星大犬座シリウスが輝いていて左上には小犬座のプロキオン、オリオン座のアルデバランと冬の大三角形をかたどっている。おうし座からオリオンの頭付近にはまだ赤い火星が輝いているがこれは1等星ではない。あくまでも恒星の話である。ここでおもしろいのは車のスバルのエンブレムの星のマークはこの星団から取ったと言う話がある。この冬の星座の近くにはクジラ座があり、そこでも変光星のミラがある。
ぎょしゃ座には1等星のカペラ、昔のマツダの高級車の名前が付いており、更にふたご座はジェミニとも言い、いすゞ自動車の高級車の名前になっている。
こうして見ると晩秋から冬の星座にかけては車屋さんの名前の星々が並んでいる。
(2023年2月25日号)
フジキ巨木
県自然観察保護員・中沢 英正
フジキは、マメ科の落葉高木で、本州の福島県以南から四国にかけて分布している。日本海側の分布北限が新潟県となっているが、上越市と津南町の一部だけにに限られる。隣県の栄村でも見られる。
津南町の生育地は中津川沿いの急斜面である。崖下の岩が堆積した所に巨木が点在している。
この樹は根に根粒菌が共生していて、空気中の窒素を利用することで、養分の乏しい環境でも生育できるのである。
環境省の巨樹データベースでは広島県三原市にある幹周490センチが日本一となっている。津南町には胸高直径1メートル以上のものが多数存在していて、写真の個体は今まで見つけた中ではいちばん太く、直径150センチはあると思われる。幹がごつごつしている上に、足場が悪いため、ちゃんと計測できていないのだ。もしかしたらナンバーワンの可能性もある。
岩を抱き込みながら根を下ろし、幾度とない落石や雪崩に痛めつけられた樹形からは、凄まじい生命力が伝わってくる。
(2023年2月18日号)
横になった基礎
大発破③
津南案内人・小林 幸一
山中や草藪の中で遺構を探すには春先か晩秋が良い。春は残雪の上をスイスイと歩け、夏場に行けない所にも行けるし、晩秋は辺りが良く見え思わぬ発見をすることもある。
屋敷の大発破下でも紅葉時期には見つからなかった砕石工場の基礎を初雪が降る頃にやっと一つ見つけることが出来ました。古い写真ではきれいな曲線を描いたベルトコンベアーの上屋や工場に130本ほどの柱が見え、その一つ一つに基礎があったはずですが、探しても見当たらず、もしかすると別の場所に砕石工場があったのではないかと考え始めた頃に、斜面に基礎が横になった状態でやっと見つけました。
当時の資料によればベルトコンベアーの延長300尺(約91m)砕石クラッシャーの処理能力は10時間で40立方坪、(233㎥)他にも砂を作るローラークラッシャ2基を有した大きな砕石工場の他の基礎は撤収する時に全て砕いたのか、次の現場に運んだのか分かりませんが、その上には岩場を切り開きトロッコで骨材の原石を運搬したと思われる道があり、他にも一定の勾配で登るマキアゲの軌道跡も確認することが出来ました。
斜面に切り開かれた作業道
(2023年2月11日号)
ふたご座
津南星空写真部・照井 麻美
今回ご紹介するのは「ふたご座」です。占いなどでお馴染みの星座ですが、ふたご座はオリオン座の左上にあり、オリオンが西の空に沈み出した22時頃に写真のように見えます。
ギリシャ神話でふたご座はカストルとポルックスという双子がモチーフになっていて、明るい2つ星が2人の頭にあたり、肩を組んだように寄り添っています。
2人は人間と神の間の子で、カストルは普通の人間、ポルックスは不死身の体を持って産まれました。大変仲の良かった2人は大人になり戦いに出るようになると、ある戦いで負傷してしまいます。不死身のポルックスは助かりましたが、カストルはそこで命を落としてしまい、それを悲しんだポルックスを見て父である神がいつも二人でいられるようにと星座になりました。
冬の有名な星座はほとんどオリオン座の近くにありますので、ぜひオリオン座を中心にさまざまな星座を見つけてみてください。
(2023年2月4日号)
獅子穴付近の絶壁と崩れる岩
県自然観察指導員・南雲 敏夫
1月19日の青空快晴のもとで萌木の里の裏側にある垂直の柱状節理のふもとまで出かけてきました。ここの柱状節理は他の場所と比べると細いのが多いため、簡単に割れて落ちているのが多く目につきます。
時々猛禽類なのか「ピーッ」と言うけたたましい声が響く事もありますが。カモシカの足跡やテンの足跡、キツネの足跡も多くあり、特にリスの足跡の多さが目立ちますね。積雪期しか入れない場所ですので(無雪期は雑木が入り組んでいて、とてもまともには入れない場所なんですよ)。
という事でして、この時期としては雪が締まっていてスノーシューでよく入れる楽しい場所です。
(2023年1月28日号)
ヤナギの冬芽
県自然観察保護員・中沢 英正
樹木は今、冬芽の中に新葉や花をしまい込んで、陽射しが和らぐのをひたすら待っている。
そんな樹木の中でいち早く芽吹き、春の訪れを知らせてくれるのがヤナギの仲間である。
この仲間は見分けるのが結構厄介なのである。これといった特徴があるわけでもなく、雑種もできやすいからだ。
妻有地域で見られる仲間は11種ほど、ドロノキとヤマナラシを入れると13種ほどになる。
生えている環境である程度種類を絞り込むことが可能である。ヤナギといえば水辺を好む。河川沿いではシロヤナギ、オオバヤナギ、ネコヤナギなど、山中ではバッコヤナギ、オノエヤナギなど、荒れ地ではイヌコリヤナギ、オオキツネヤナギなどが見られる。
花で見分けるのは至難の業。だがそれを包む冬芽は種類によって形や色に個性があり見分ける重要なポイントとなる。写真はバッコヤナギ(写真上)とオオキツネヤナギ(同下)の冬芽である。
冬はヤナギの勉強をするのに打ってつけの季節なのだ。
(2023年1月21日号)
大発破②
津南案内人・小林 幸一
屋敷の布岩近くにある掘割がどのように使われたのか、100年前の写真と見比べ、同じ背景の場所を探しました。
まず古い写真の大きく岩が剥ぎ取られた所が「大発破」であると、道路脇のコンクリートで巻かれた大きな溝は、砕石工場のベルトコンベアーで運ばれた砕石や砂を落とす溜場で、溝はトロッコがその中に入り砕石や砂を積み込む施設と思われます。
その仮説を現在の写真に書き込むと、斜面と直角に配置された溝や、現在の道路とも近いことから、砕石を満載にしたトロッコが秋山林道に走って行く姿が想像できます。
また、古い写真の左下に私がピンク色に塗った斜めの柱(方立)が溝のコンクリートに規則的に開いた穴と角度が合いそうなので、溝の上には太い梁で支えられた溜め場があったと思われます。
(2023年1月14日号)
うさぎ座
津南星空写真部・照井 麻美
新年あけましておめでとうございます。
今年は卯年ということで、星座のうさぎ座をご紹介します。
ギリシャ神話ではオリオン座の足元に位置することからオリオンの仕留めた獲物、もしくは狩りの際に踏みつけられ命を落とした哀れなウサギを神々が哀れに思い、天に上げたと言われています。
うさぎ座はあまり有名でありませんが、冬の星座の代名詞でもあるオリオン座の下に位置し、形も星座の中ではウサギを想像しやすい星の配置なっています。
今ごろの時期になりますとオリオン座が昇りきったあとの22時すぎに南の空に上がってきます。オリオン座が見つけられると探しやすいのですが、うさぎ座を構成している星々が少しくらい星座なので、家の明かりや町明かりの少ない暗い場所での観察をお勧めします。ぜひ、ウサギを星空に探してみてください。
(2023年1月7日号)